対談この人と
話そう...
| 2025年9月発行(vol.106) |
![]() |
たかす文庫「 この人と話そう… 」
紫紘 株式会社
1954年創立
|
||||
| 聞き手 蓮井 将宏 | |||||
|
ウィリアム・モリス(1834〜1896)は富裕で保守的な家庭に生まれ、幼少期を自然豊かな邸宅で育ちました。
13歳で父親が他界。オックスフォード大学に入学すると19世紀を代表する美術評論家ジョン・ラスキンの著作を愛読し、 画家エドワード・バーン=ジョーンズらと親交を深めました。 モリスが主導したアーツ アンド クラフト運動は、1880年代から20世紀初頭にかけてイギリスで興った手工芸復興運動で、「役に立ち、美しいものを、喜びを持って作ること」や、「ものを作る事はあくまで自然から学ぶべき」というモリスの考え方が色濃く反映されています。 また、モリスはそれまで上流階級の女性の嗜みと目されていた刺繍を芸術的手仕事として評価し、刺繍家であった妻が快適に暮らせるように室内装飾や家具、壁紙までデザインした家を設計。 1896年、最後に「美しい本」を完成させ、ユートピアに旅立ちました。 店主 |
|
モリスの帯
蓮井:ウィリアム・モリスは19世紀イギリスの思想家であり詩人であり、デザイナーでもあって、アーツ アンド クラフツ運動を主導したことで有名な人ですが、紫紘さんは西陣の帯屋さんとしてどうしてそれまでの持ち味とは違うウィリアム・モリスのデザインをやろうと思ったんですか?
紫紘:最初は、父が突然始めたと記憶しています。90年代に始めて、本格的に作り始めたのが2010年くらいから。この狐孫草と名付けた柄がスタートでした。
蓮井:狐孫草というのは?
紫紘:モリスの原案では「アカンサス」というタイトルなんですが、この植物は分類学上はキツネノマゴ科とよばれるものに分類されているそうです。もともとヨーロッパの建築には多く使われていて、古代ギリシア・ローマ時代からアカンサス文様というので流行ったそうです。西洋アザミ(葉アザミ)がモチーフで、日本でいうと唐草文様ですね。うちはフォーマルものが主力の帯屋なんですが、フォーマルでない用途の方にうちの品質のものを、ということで、金や銀の箔をベースにせずに、紬を着る人にも締めてもらえるようにと。それから趣味で着物を着るという方にも、すでにお持ちのものに重ならないものを、と。従来の着物の世界の柄ではないので「どういう着物に合わせたら良いかわからない」というお声も最初はあったんですけど、それならば、「例えば、」という提案として色無地を作りました。最初は袋帯から始めて、それから名古屋帯、次に白生地という順番です。
蓮井:西洋的な柄は今の日本人の暮らしの風景にも馴染みますよね。
紫紘:そうですね、それからおしゃれで着てもらうものなので、ポジティブに、「着物を着たい」と思ってもらえる方を増やしたいというテーマも含んでいます。洋服が好きな方が入りやすいデザインじゃないかと。そして「やっぱり着物のほうがおしゃれやん」って思ってもらえるように…。
蓮井:どうして日本でモリスのデザインが人気があるんでしょうかね?
紫紘:モリスのデザインは発祥がローマギリシャ文化で草花文が多いですし、地中海世界や西アジアに起源を持つ宝物を多く納める正倉院を文化遺産として持つ日本人の感性に合うのではないかと。
蓮井:深いところで繋がっていたわけですね。
蓮井:ではこれからはどんなことを考えていますか?
紫紘:モリスから話が逸れるんですが西陣全体で職人さんが減ってきているので、それをなんとかしていきたいです。うちも手機で織ってくれていた織り手さんが亡くなったり、ベテランの人がコロナで入院しはって調子崩したりして、機を動かせないという、非常に難しい状況に直面しました。西陣の組合で、お互い情報交換、シェアしていきましょうという集まりがあって、そこで機を見てくれる人を紹介してもらったり、ツテを頼って、なんとかなりそうというところまで来ました、その人も高齢で…。今来てくれてはる80歳くらいの人たちが、呉服業界最盛期の最後の世代でノウハウをたくさん持ってるんですが、その人たちの後継者を育成する馬力のない業界になってしまっていたところにコロナがきて、グッとストップがかかってしまったんです。
蓮井:若い人でも職人としてやっていけるシステムを作ることが急がれますね。今は一見、物が溢れているように見えますが、いつでもある、なんでもお金出したらできる、という時代は終わりました。モリスは中世ヨーロッパの手仕事に還り、生活と芸術を統一することを主張しましたよね。産業革命後のイギリスで労働や貧困の問題に向き合い、住環境を改善し、自然と手仕事から生まれる美しいもので彩られた生活を送ることで平和な社会を実現しよう、という。僕は、今の時代にも、その感覚が必要だと思っているんです。今こそ、暮らしの中に潤いが大事。その潤いとは自然の摂理に即し、手仕事によって作り出された物によってもたらされるものと僕は考えます。そういう意味で、現代もモリスの時代と重なる部分があるのかもしれませんね。
|
| ←back・next→ |