対談この人と
話そう...
| 2025年12月発行(vol.107) |
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たかす文庫「 この人と話そう… 」
ガラス作家 三浦 世津子 |
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茅野市
高松から茅野市まで六時間の旅でした。朝一番に出て、お昼頃に茅野駅に降り立つと晴天が迎えてくれました。 初めての土地なので色々感じてみたいと思いつつ、最初に伺ったのが「神長官守矢史料館(じんちょうかんもりやしりょうかん)」です。敷地内には藤森照信氏の創作した高過庵(たかすぎあん)、空飛ぶ泥舟といったなどが点在する、必見の文化財です。将にこの辺りが縄文時代から人々が暮らしていた場所だとわかりました。今でも至る所で土中から石器などの遺物が出てくる様です。 近くに「茅野市尖石縄文考古館」(ちのしとがりいしじょうもんこうこかん)もあり、国宝の土偶である縄文のビーナスや仮面の女神が展示されています。また、白洲蒸留所も近くにあり水道水は伏流水らしくとても美味しく感じられました。 ぜひ皆様も縄文の風を感じる旅に出てみてください。 蓮井 将宏 拝 |
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人運のひと
蓮井:茅野市は八ヶ岳や縄文時代の遺跡などで有名ですが、三浦さんはどんなご縁があったんですか?
三浦:30年近く前に北澤美術館系列の「SUWAガラスの里」という施設が出来たときに、創設者である岡野或男さんという方に呼んでもらったのがきっかけです。
蓮井:そもそも三浦さんがガラスに興味を持ったのはいつ?
三浦:最初はグラフィックデザインの専門学校へ行き、集英社の下請けの会社に就職したんです。でもデザインというものが自分に合っていないと感じて退職して、いわゆる「自分探しの旅」に。当時、知多半島の付け根に住んでいて、常滑の焼き物祭りに行く機会があまりした。そこで、エネルギーが他と完全に違う不思議なテントを見つけて。それが鯉江良二さんたちが出品していたテントだったんですよ。
蓮井:それはおいくつの時ですか?
三浦:21歳ですね。何が自分の素材なのか、と探していたときに鯉江さんたちに出会って、でも焼きものは無理だなと思いました。この凄い人たちの中に入って私が何かできるとは思えなかった、で、彼らの周辺をうろうろしている間、倉敷ガラスの小谷眞三さんのところへ伺ったんですよ。会ってもらえないかもしれないけど、とりあえず。でも伺ってみたら、幸運にも小谷さんが工房に招き入れてくださって。
蓮井:すごい、ラッキーでしたねぇ。
三浦:私、「人運」があるんですよ。その時に、ガラスがいいな、と思ったんです。
蓮井:三浦さんにとってガラスの魅力って何なんですか?
三浦:透明感ですね、光。最初に小谷さんのところで見たあの印象。もともと鉱物とか透明なものが好きだったこともありますね。でも私のルーツというか、形は完全に焼きものだと思います。高台があって、その上のバランスとか、ガラスにはないものなので焼きものを主によく見てますね。特に唐津の焼きものの形が好きです。だから焼きものがお父さん、ガラスがお母さん。ただ当時日本の流行は彫刻としてのガラスだったんですけど、私は器が作りたかったんです。またその頃はガラスを教える教育機関が日本に少なくて、あちこち話を聞いていたら、ガラス作家の石橋忠三郎さんという方が、イギリスに1年間だけの面白いコースがあるよと教えてくださったんです。そこはスターブリッジというガラスの産業が盛んなところなんですが、アーティストを育てるのではなくて技術者の長になる人を育てるコースで。窯の作り方、バーナーのシステム、ガラスの組成などを教えてくれるというので、応募して行ったんです。
蓮井:英語は?
三浦:まだ若かったし、周りの人も英語なんていけばなんとかなるって。で。行ったんですよ。何とかならなかった(笑)。よくありがちですね。でも向こうの先生たちが「東洋からきた娘がしゅんとしていてお金もない」というので住み込みのベビーシッターを紹介してくださって。そこの4歳児が私に英語を教えてくれました(笑)。
蓮井:そこで1年間学んで、ガラスの基本的なことを覚えたんですね。なんという学校ですか?
三浦:ダドレー・カレッジ・オブ・テクノロジーです。その後、先ほどのガラスの里のマネージャーとして働く上でも、そこで知った知識が私の基礎になりました。
蓮井:イギリスで1年間学んだ後は?
三浦:まだ日本に帰るの嫌だなと思って周りの人に聞いて回ったら、先ほどの石橋さんが「アイスランドの工房のアシスタントの求人がある」と教えてくださって。それでアイスランドへ。その間も、私、チェコのグラヴュール(彫刻技法)という技法がやりたくて、でもその当時はまだ社会主義の国だったので、どうしたら良いか色々ツテを探していたら、大使館の手違いで入学許可が降りたんですよ、で、アイスランドの雇い主に話をして、それからチェコに行きました。チェコも良かったです…。
蓮井:エングレービングの技法ですよね。
三浦:はい、言ってみればあれが今の仕事のルーツですね。それから、また向こうで知り合った人から当時私が習いたかったリベンスキー教授夫妻という方々がちょうどアメリカはシアトルの教育機関で夏の間だけ講習をやるというのを聞いて、そこの奨学金に応募して。そのまま行くと帰国する為の交通費なくなっちゃうなと思ったんですが、ま、行ってみようと。なんとかなるだろうと思って行きました。で、行ったらやっぱり帰国するお金がなくて。また聞いて回ったらデイル・チフーリというアメリカの人間国宝みたいな人が若い人を雇ってるという話を聞いて。ちょうどチフーリが日本で展開するところだったから、ワークショップもするし、荷物送る為の交渉係として雇ってくれることになって。で、「ワークショップするならアシスタントいかがですか、私も日本に連れていきませんか」と売り込んで、旅費ゲット!それで帰ってきました。それからもう1回シアトルに戻ってアシスタントをしていたときに、先ほどの岡野さん、現在は北澤美術館の副理事長さんがシアトルに視察にいらしたんですよ。
蓮井:そこで繋がるんですね。
三浦:人運、人運、人運です。
灯り
蓮井:鯉江さん、小谷さん、デイル・チフーリという方達と出会って、イギリス、アイスランド、チェコ、アメリカと、人との出会いに導かれて今があるんですね。
三浦:人との出会い運というのはすごくあると思います。だからこそ、enさんともこうして展覧会が出来るんだと思っています。
蓮井:最初の2018年から数えて今回は4回目の個展になりますよ。長いご縁をいただきありがとうございます。12月の展示会の作品はどういうものが出展していただく予定ですか?
三浦:今回は「灯り」ということがテーマで、シャンデリア、これはイタリアなどによくあるシンメトリーの巨大なものではなしに、日本の家屋に合うサイズ感で、なおかつ自分のイメージに合ったアシンメトリーものにしたいなということで、色んなパーツを自分で手作りして組み立てています。もう1つはアイスランドにいる時、あちらでは日本でお客様をお招きする時の打ち水みたいな感覚で、また家族の為にも、夜がなにしろ長いので窓辺や玄関にろうそくを飾っているのをいつも見ていたんですけど、その器を自分なりにガラスで作りました。
蓮井:ウェルカム・キャンドルということですね。1人1人の灯りがつきますように、世の中が明るくなりますようにというメッセージもあるんですね。
三浦:そうですね。それから器も少し、ラリックのイメージと、染織の更紗の技法にインスパイアされた鉢を作りました。
蓮井:三浦さんの更紗文様のガラスは人気ですよね。
三浦:更紗は昔から好きだったんです。インドネシアのバティックみたいなのとか、更紗からインスパイアされたものとか。バティックはロウで防染するじゃないですか、私がサンドブラストをするときにロウの代わりに糊でガラスの面を保護するんです。そうすると糊の部分が透明に残るという、あれはバティックの手順と同じですね。
蓮井:なるほど。では年を締めくくる良い個展になればと思います。良い灯りを皆様にお届けしたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします。
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