たかすの杜
平成十八年春に植樹を終えた、たかすの杜。
土を整え、草木を植えて、自然の姿から成る場所を地域に取り戻そうという
想いから、「庭」ではなく「杜」と呼び、四季を過ごしてきました。
街中にひっそりと佇む自然を、皆様と共に感じることが出来れば何より
嬉しいことです。
杜のある街へ 香川県高松市・呉服屋たかすの夢の一歩 |
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2006年春に高松市の繁華街の一角に小さな「杜」がうまれた。和服を商う「たかす」店主・蓮井将宏さんが土地を求めてつくったのだが、個人だけで楽しむ「庭」でなく、街なかに自然の息吹を取り入れる場所にしたいとの思いをこめて「杜」とよぶ。 本業である呉服店の並びに杉塀で囲まれた57坪の空間はもと駐車場。2005年夏にアスファルトをはがし、10月末、土中に5トンの竹炭を埋めた。炭素質の埋設によって生き物の育ちやすい環境をつくるためだ。念入りに場をととのえた上で施工と植樹がされた。 造園は水本隆信さん、杉材での塀と楕円型のデッキは六車誠二さんの設計。ふたりとも香川県で活躍しており、地元の人の力を美しい形に結んでいきたいという蓮井さんの気持ちともあった。身土不二、地産地消などを人に対しても実践しているわけだが、「杜」は竣工して終わりではなく、そこからはじまるのだから、近くにいる人につくってもらうのが自然であろう。 今の季節ならヤマボウシの花が咲いている。ウメやツバキ、カエデなどこの地に適した38本の木と、フッキソウやホトトギスなど28種類の草花を植えた。これからいくつもの季節を過して小さな杜が育ち、それとともに蓮井さんの夢も実現していくのだろう。 でもその夢は彼だけのものではない。なんとこの杜のある町の名は今新(イマジン)。多くの人がすぐにジョン・レノンの”imagine”を連想するのではないか。野暮を承知で忌野清志郎の訳を引用しよう。 「夢かもしれない/でもその夢を見ているのは/きみ一人だけじゃない/世界中にいるのさ……」。蓮井さんは、市内にこのような杜が増えれば、百年後には今よりももっと住みやすい街になるだろうという。 それにしても百年後を想像して大きく行動していくなんて、まさに夢のよう。社会の現状を知って何かしたいと思ってもあまりに大きく複雑で、実際は目の前の仕事に追われるばかりで動けない。しかし人の心に潜在するであろう夢にむかって少しずつ動いている人もいる。 こうした杜が高松だけでなく、あちこちの街に増えていってほしい。 |
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取材・文 石田紀佳CONFORT(コンフォルト) 6月号 2007.5.5発売より |