店主の
ひとりごと
窓を開ける | |
和歌山県の静かな山村でのお話です。その村で日本刀を作っている方を紹介されました。白衣を纏い、刀を見台の上に置き(松脂で刀を固定して)、鋭い眼で見つめていたその方に、少しお時間を頂きお話を伺う事に。 「刀作りで一番大切な事は?」 「日々、己の癖をなくす事です」 この一言に強い衝撃を受けました。個性とは人が生まれながらに持っているものですが、日々の自分の悪い習慣によって癖となります。その方は刀を作りながら己を正し、自分を創っているのです。また刀を見ながら「これが窓を開ける事です」と教えてくれました。それは完成前の刀を一部分、研ぎ師に磨いてもらう事で、これまでの過程が正しいか否かを、そこで知るとの事でした。 「窓を開ける」作業が一度振り返る(反省)事になります。私達の生活もこの時期にさしかかっている様に思われてなりません。本当の未来志向とは過去を振り返り反省した上で、真っ当な道を歩んでいく以外には生まれ得ないと思います。また、「窓を開ける」という表現の日本語に深く心を動かされました。 日本刀が日本に生まれた背景を知ると、驚かされます。「忍耐強さ」、「砂鉄と木」、「嵐山にしかない砥石」、この3つの要素が奇跡に近い美術品を創り上げたのです。この技術から全ての現代工芸(金工・漆・革・染織など)が生まれました。ひたすら美しい刀を作ろうとした男達の夢を追いかけてみてください。日本人の叡智が詰まっています。 合掌
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vol.54 (2012年9月発行)より |
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